「日常会話は簡単。数百の単語で何とかなる」とお思いになっている方は2つの点で思い違いをされているかもしれません。一つは「日常会話」とは何かを誤解されている場合。二つ目は日常会話での文法が簡単だという勘違いです。
前回の記事で「外国語で日常会話を話すことは実は非常に難しい」と前回書きましたがその補足を。

日常会話は簡単という誤解はなぜ起こるのでしょう? まず日常会話の例を出してみます。
●美容院にて「髪の量が多いので全体的にすいてください。もうちょっと明るい色に髪を染めたいな」と頼む。
●会社にて「また課長にどやされちゃったよ。まいったなあ。でも納期がぎりぎりすぎるんだよな」とぼやく。
●精肉店にて「その挽肉を1パック。あとステーキ用の牛肉をスライスしてくださる? 脂身はいらないわ」と注文する。
●家族と「駅前の交通事故はひどい惨状だったね。居眠り運転が原因だって?」とうわさ話をする。
●近所の人と「今日の天気予報何て言ってた? 曇ってきたわ。シーツを干さなければよかった……」と話す。
日常会話とは普段、ごく普通にかわされる会話のことです。ひきこもりでない限り、最低限の社会生活をし、家族や友人と交流するためには必ず会話が必要になります。自己紹介や観光などの特殊な状況における会話は日常会話とは言えません。
上に上げた例は誰でも普通に話す内容ですね。でもこれをスラスラと外国語で言えますか? 言えるとしたらあなたはすでに相当なレベルの語学の達人です。
そして二つ目。日常会話で使われる単語や文法が簡単なものだと誤解されている場合。上の例文を外国語で訳してみて下さい。簡単ですか? 気軽な会話だから単語や文法も簡単だろうというのは大間違いです。
例えば最後の例文「〜しなければよかった」など後悔の感情を表現する、英語の文法を覚えていますか? すぐに口をついて出た人はかなり熱心に英語を学んだ人でしょう。
shouldn’t have +pp。いわゆる仮定法ですね。
「〜だったらいいなあ」「しまった、〜しておけばよかった」「(押しつけがましくなく)〜してくれる?」みたいに微妙な気持ちを表現するのにはかかせない文法です。仮定法が上手く使えるようになったら初級英語を脱したと言っても良いでしょう。
仮定法は日本人の英語学習者にとっては難関ポイントの一つですが、日常会話では実に良く使われます。外国人と話すとき、ネイティブスピーカーは「仮定法は難しいから別の表現をしてあげよう」と言い換えてくれるでしょうか? そんなことはしませんね。小学生でも使う表現ですから。
日常会話に「難しい文法・易しい文法」などありません。
単語だって容赦はありません。母語では気づきにくいのですが、外国人にとって難しい単語も普段の会話にバンバン登場します。
例えば日本語学習者が苦労するのは「風にぱたぱたなびく」「水がぽたぽた落ちる」「しーんと静まった」というような擬声語・擬態語。外国人にとってはなぜ「ぱたぱた・ぽたぽた・しーん」なのか分かりにくいからです。でも日本人は小さな子どもでも普通にしゃべっていますよね。
そして一本(ぽん)、二本(ほん)、三本(ぼん)……と「本」の読み方がなぜ変わるのか理解できない!という外国の方も多いです。なぜお箸は「一膳」で、鉛筆は「一本」なの?と悩む方もいらっしゃいます。日本人ならそんなの当たり前じゃん、で終わる話かもしれませんが。
母語の話者にとっては簡単なことも、外国語学習者にとって相当難しいということは往々にしてあります。日常会話の文法は難しいのです。
そして外国語で相手の気分を悪くしないようにものを頼んだり、無礼にならないように自分の意見を述べたりというのは意外に難しいものです。
日常会話が簡単だと言う人はまだ初心者レベルにとどまっていて誤解しているか、完全なバイリンガルとして流暢に外国語を操れるかのどちらかでしょう。
日常会話をストレスなく話せるようになったら一人前。日常会話ほど難しいものはありませんが、コミュニケーションの醍醐味は日常会話にこそあるのです。日常会話をあなどらずに学習を続ければきっとその楽しさを実感できるはずです。【麻理】
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