何よりも大切なものは記憶『明日の記憶』(荻原浩)を読みました


こんなに読むのが苦しく、恐ろしい本とは思わなかったです。何度も肌が粟立ち、胸が痛みました。でもラストシーンの美しさには泣けます。最近本を読んで泣くことが少なくなってきたので私自身驚きました。そんな、怖くて切ない物語。

主人公・佐伯部長は広告代理店で働く50代のサラリーマン。最近物忘れがひどいことに悩んでいる。人の名前が出てこない、これから何をしようとしていたかふと忘れてしまう。まだまだ若いと思っていても、ぼけが始まったのだろうか。勇気を出して病院に行ってみると、実は単なる痴呆ではなく若年性アルツハイマーという診断結果が下された……。

アルツハイマー病は、誤解の多い病気です。一般的にただの「ボケ」と同じように思われていますが、実は死に至る病。それも治療方法のない不治の病なのです。

アルツハイマー病にかかると、徐々に記憶を失ってゆき、性格が変化し(疑い深く、怒りっぽいというネガティブな方向に)、けいれんや失禁などうまく身体が動かなくなり、肉体が徐々に死に向かっていくのです。

様々な説があるものの発病から死に至るまで10年以内と言われ、しかも原因が分からず治療法もないので、ある意味ガンよりも恐ろしい病だと言えます。でも一般にその深刻さが理解されておらず、病気の本人も介護する家族も二重に苦しむのです。

佐伯部長は日々起こることをメモに書きとめ、いつもポケットがメモでふくらんでいます。それでも楽しかった思い出も辛かった思い出もぽろぽろと落っことしていってしまいます。

記憶をなくすというのは自分がなくなるということです。それはどんなに苦しく恐ろしいことか。でも絶望の中で、必死に生きようとする佐伯部長を見ていると勇気が沸いてきます。どんな状態にあっても最期まで闘い続ける人の姿に感動するのです。

私は子どもの頃から記憶力には自信があります。日本史の教科書をまるまる一冊暗唱できたほどで、昔よりは多少記憶力が落ちたものの、今も特に物忘れに悩んだりすることはありません。

私はブランドものなどお金で買えるものよりも、何でも自分の頭に入れて所有したいという欲があるからです。それは私の子どもの頃の生い立ちに関係があるのかもしれません。

そんなわけで、自分の大切なものがどんどんなくなってゆくという『明日の記憶』は、本当に本当に怖い物語でした。でもこの本を通してアルツハイマー病についての誤解がなくなるといいなと思います。【麻理】

50歳以上の人にとっては特に恐ろしい本だと思う。

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